【マイノリティー】理解はできなくとも、知っておきたい世界がここにはある!『正欲』作品紹介

小説

はい、こんにちは。キザメです。

今回は、

朝井リョウさんの「正欲

を紹介していきます。

積読山に入ってはいたのですが、

この度映画化されるということで、

慌てて読みましたが、

何度も手が止まり

その文章を自分の中で消化していくのに時間のかかる作品でした。

それくらい出てくる言葉や登場人物たちの生き様に

揺さぶられまくりました。

 

ぜひ読んでいっていただければと思っています。

 

それでは始めていきましょう。

あらすじ

自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな―――。

息子が不登校になった検事・啓喜。

初めての恋に気づく女子大生・八重子。

ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。

ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。

だがその繋がりは、“多様性を尊重する時代”にとって、

ひどく不都合なものだった。

読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。

本書裏表紙より引用
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見どころ

いやー…

すごい作品と出会ってしまいました( ´Д`)y━・~~

この作品が出た当初から、

「価値観が変わる」とか「読む前には戻れない」とかって評価を聞いてきましたが、

その通りだわっていうのが素直な感想ですし、

「多様性」とか「個性を尊重しましょう」とかといった言葉が、

酷く薄っぺらいものに感じました

 

この作品は、冒頭、誰かの語りのようなものが7ページにわたり語られます。

様々な情報は「明日死なないこと」というこの世界全体がいつのまにか設定している大きなゴールへと収斂されていくという話に始まり、

多様性を認めようという価値観に対して思うことが語られ、

そして、

「自分という人間は、社会から、しっかり線を引かれるべきだと思っているので。

ほっといてほしいんです。

ほっといてもらえれば、勝手に生きるので。」

という社会に対する強い拒絶にも似た言葉が発せられる一方、

でも、ほっといてもらうには、ゴールへと向かう流れに乗ることが一番手っ取り早いのが現実

という矛盾についても触れられており、

総じて、『生きづらさ』を感じる語りでした。

この7ページをもっとも端的に表しているなと思ったのは、

「私はずっと、この星に留学しているような感覚なんです。」

この1文です。

伝わってほしいな…、この居心地の悪そうな感じ。

 

後にこの語りは、ある登場人物の書き留めた想いだということがわかりますが、

初見で読んだ印象としては、

これは朝井先生の感じている事なんじゃないかなって思ったりもしました。

 

そんな語りの後、児童ポルノ摘発の記事が出てきます。

これを読んでしまうと、

もう先入観を持ってしまい、記事に名前のある3人が、

主要な視点人物である“寺井啓喜” “桐生夏月” “神戸八重子”の3人にどういう風に関わり、

どう社会に紛れているのか…。

そんな視点で物語を見てしまいました。

正直言うと、

寺井のこどもが参加するNPO法人の“らいおんキッズ”の職員なんかは

怪しい候補の筆頭でしたよね。

なんなら、寺井の子供と一緒にYouTubeをやる子供が被害者なのかと思ってもいました

でも、読んでも読んでも小児性愛に関する話はまるで出てこない…。

どういうことなんだろう…?

そう思って、読んでいきつく結末には、

「うわ〜そういうことだったのか…」と、

天を仰いでしまいました。

この結末というか真相を知り、悲しい気持ちになりましたし、

取り調べにおける寺井の

「まあ、現実的にはそんな言い逃れは有り得ないわけですが」という言葉に、

結局人間は自分が認知できる物事にしか理解が及ばないんだなということを実感しました。

 

世間でよく言われているLGBTQといった性的マイノリティーも、

人対人の問題だから世間も認知でき、議論の対象として話題にもなります。

ですが、

この『正欲』で出てくるような『水に対して性的な興奮を感じる』という性癖については、

「えっ?そんな人いるの?」というのが正直な第一声なのではないでしょうか?

 

その後、理解しようと努めたとしても、

「川のせせらぎって落ち着くよね」とか

「滝とか見に行くとさ、マイナスイオン浴びてる感じがして癒されるよな」とか、

恐らく、『水に対して性的な興奮を感じる』人からしたら、見当違いもいいところな感想で、

理解した気持ちになって近づいてくる…、そんな感覚なのかもしれません。

 

この作品を読んで、本当に自分の知らない世界がまだまだ沢山あるんだということを知りました。

そして、その当事者の方々が多くのことを諦めて生きていることも…。

理解者になることはできなくても、

そういう人もいるということは頭において生きていきたいなとは思いました。

刺さった言葉たち

最後に、作中で特に刺さった言葉たちを紹介して終わりにしたいと思います。

≪瀬戸大也と神戸八重子のやり取りで、瀬戸大也が発した言葉≫

「自分が想像できる”多様性“だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」

 

「多様性って言いながら、一つの方向に俺らを導こうとするなよ。自分は偏った考え方の人とは違って色んな立場の人をバランスよく理解してますみたいな顔してるけど、お前はあくまで“色々理解してます”に偏ったたった一人の人間なんだよ。目に見えるゴミ捨てて綺麗な花飾ってわーい時代のアップデートだって喜んでる極端な一人なんだよ。」

≪桐生夏月と佐々木佳道が一緒に暮らし始めた頃の会話で夏月が言った言葉≫

「あれ(生き抜くために手を組みませんか)ってこういう意味だったんだって実感すること、普段も結構あるのね。

(中略)

あー死なない前提で生きてるなって感じられるし、将来のこと考えて上下左右わかんなくなるくらい不安になる瞬間があっても、その不安を共有できる人がいるって思えるだけでちょっと楽になるし…ほんとに、色んなところで、こういうことかーって思う。」

 

「でも、それを一番感じたの、今日かも。」

≪桐生夏月と佐々木佳道がセックスの真似事を行っているときに佳道が考えたこと≫

みんな本当は、気づいているのではないだろうか。

自分はまともである、正解であると思える唯一の依り所が”多数派でいる“ということの矛盾に。

“多数派にずっと立ち続ける”ことは立派な少数派であることに。

まともって、不安なんだ。

正解の中にいるって、怖いんだ。

 

物心ついたときから、自分を間違った生き物だと認識していた。この星の異物だと街じゅうから思い知らされてきた。そのおかげで、自身の迷いを誰かと確かめ合う必要がなかった。誰かにわかってもらうことも、誰かをわかることも、端から諦めていた。

 

それは実は、とても幸福なことだったのかもしれない。

特に3つ目は、

最後の取り調べの場面での、啓喜と夏月とのやり取りで、

あくまで一般論としての視点で話しているはずの啓喜が、

この事件の関係者の中では、

どんどんとおかしなことを話している立場に追いやられていくような感覚になっていくシーンで、

切実に感じられました。

取り調べを受けた人間がそろって、

「あなたにはわからないでしょうけどね」

と、目で態度で突きつけてくる。

自分が急にマイノリティー側になる感覚が分かると思います。

 

こんな感じで、価値観を揺さぶられる言葉がたくさん出てきます。

ぜひ読んでみてもらって、みなさんの感想も聞いてみたいです。

 

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終わりに

ここまで、

朝井リョウさんの「正欲

を紹介してきましたが、

いかがでしたでしょうか?

 

読了してすぐに映画を観てきましたが、

やはり、演技者がいると

その表情やら空気感やらがはっきりと伝わってきますね。

わかってもらえない絶望感も

同志がいることの安心感も…。

原作と共に映画も見てもらいたいですね。

 

また、朝井リョウさんの作品では、

時をかけるゆとり」も紹介していますので、

併せて読んでいただければ幸いです。

【エッセイ】作家の書く日常のエピソードはやっぱりおもしろい!「時をかけるゆとり」作品紹介
今回は朝井リョウさんの「時をかけるゆとり」を紹介していきます。ゆとりシリーズの最新作である「そして誰もゆとらなくなった」の帯に『頭空っぽで楽しめる本』と書いてあるのを見て、じゃあ第1弾から読んでみようと手に取った作品です。日常の体験談を作家さんが描くとこんなにも面白く感じられるんだというのを体験できる作品だなと思います。

 

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